東北大学病院においては、1999年に移植施設として認定され、2006年に初の脳死下膵腎同時移植術を行い、これまでに15例の脳死下膵腎同時移植を行っています(2022年7月現在)。
膵臓移植とは、患者様自身の膵臓からのインスリンがごく少量しか分泌していない重症のインスリン依存型の糖尿病(以下、1型糖尿病)に対する根治的治療法です。膵臓移植を受けることで高血糖や低血糖発作から開放され、血糖が安定します。また糖尿病性合併症の進行を抑えることにより生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)を改善し、移植前よりも制限の少ない生活を送るために行われます。
膵臓移植の対象は、下記の条件を満たしている1型糖尿病患者様です。
- 1. 年齢は原則として60歳以下が望ましい。
- 2. 内因性のインスリン分泌が著しく低下している。
- 空腹時C-ペプチド<0.5ng/ml
- 尿中C-ペプチド<10ng/day
- グルカゴン負荷後C-ペプチド<0.5ng/ml
- 3. 糖尿病専門医の努力によっても血糖値が不安定であり血糖コントロールが困難である
- (重症低血糖発作の既往ある)
- 4. 糖尿病性腎症により腎不全に陥っている糖尿病患者であること(膵腎同時移植の場合)
- 5. 患者、家族が膵臓移植の内容を十分に理解し、移植後の協力体制が整っている
1. インスリン依存型糖尿病(1型糖尿病)患者様でも食事療法や血糖降下剤、
あるいはインスリン療法により十分な治療効果が得られている。
2. 重要臓器に不可逆的な障害が存在する(骨髄疾患、肝疾患、筋・神経疾患など)。
3. 悪性腫瘍
4. 活動性の感染症がある。
5. 糖尿病に特異的な合併症
進行性の壊死
重度脳血管障害
高度末梢神経障害
活動性の前増殖性網膜症
1.膵腎同時移植(SPK) | |
糖尿病性腎症により腎不全を合併し透析治療を必要としている患者様に、同じドナーから提供していただいた、膵臓と腎臓を同時に(一度に)移植します。自身の膵臓と腎臓は取り除かずそのまま残ります。手術時間に関しては、約12時間程度かかります。膵臓移植の手術としては、新しい膵臓が十二指腸をつけた状態で右下腹部に入ります。次に動脈と静脈をつなぎます。最後に膵臓から分泌される膵液を流すために新しい膵臓についている十二指腸を患者さん自身の小腸につなぎます。腎臓移植の手術としては、左側の下腹部に新しい腎臓が入ります。膵臓移植同様、動脈と静脈をつなぎ合わせます。最後に尿を腎臓から流す管(尿管)を患者さん自身の膀胱につなぎ合わせます。 |
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2.腎移植後膵臓移植(PAK) | |
糖尿病性腎症による腎不全に対して腎臓移植だけを先に行ってから、その後、膵臓移植を行う方法です。こちらの場合は、膵臓、腎臓それぞれ別のドナーからの移植になります。 | |
3.膵単独移植(PTA) | |
腎機能に問題がない患者様に対して、膵臓だけを移植する方法です。膵臓移植だけの手術時間は5~8時間程度です |
1.移植件数
- 2000年4月に第1例目の膵腎同時移植が行われてから現在までに472例の脳死下膵移植が行われています(2022年4月)。2010年7月に改正臓器移植法の施行後、脳死ドナーからの移植が急増しており、現在の待機期間は平均で832日となっており、今後、待機期間はさらに短くなることが期待されております。
2.成績
- 脳死、心停止下膵臓移植をうけた患者様の1年、3年、5年、10年生存率はそれぞれ、95.8%、94.9%、92.9%、86.1%です。2021年までに行われた438例の脳死下・心停止後膵移植のうち、移植後に 43例の患者が亡くなっています。死亡原因として、多い順に感染症、心不全、悪性腫瘍、脳血管障害などが挙げられます。
- 手術後に血栓症(血管に血液の塊ができて血液が流れなくなってしまう現象)や腹膜炎などをおこし移植した膵臓を取り除く必要のでた患者様や、慢性拒絶反応で膵臓の機能が低下し、インスリン治療が再び必要になった患者様もいます。 これらを除いた、膵臓がきちんと機能している状態のことを「生着している」といいます。移植した膵臓の1年、3年、5年、10年生着率はそれぞれ85.6%、80.3%、76.5%、68.1%です(2021年12月現在)
膵臓移植は、生体移植もしくは脳死移植が可能ですが、東北大学病院においては脳死の膵臓移植のみ認定施設となっておりますので、生体移植は行えません。
脳死移植を希望する際には、以下の手順で登録となりますが、移植手術が可能かどうかを十分に検査し、病院内外において慎重に評価する必要がありますので、検査を受けてから実際に登録手続きが完了するまでは、3~4ヶ月程度かかります。また登録から移植までの平均待機期間は約2年半となっておりますが、場合によっては10年以上待機しなければならない患者様もおります(2022年現在)。
<移植費用、移植後の費用>
脳死になられた方からの臓器提供による膵臓移植は、健康保険の適用になります。
また膵腎同時移植を受ける患者さんの場合には、腎不全による身体障害者手帳を所持していれば、自己負担軽減を図ることができる制度として、障害者自立支援制度の自立支援医療(更正医療18歳以上、18歳未満は育成医療)を利用する事ができます。また移植後の通院による抗免疫療法も、自立支援医療が適用されます。
<医療費以外にかかる費用>
お亡くなりになられた方からの臓器提供による移植を希望する場合には、日本臓器移植ネットワークへの登録が必要になります。そのため、登録料や登録更新料、移植になった際には下記の費用を支払わなければなりません。下記の費用に関しては全額患者様の自己負担となります。
登録・更新に必要な費用 | 新規登録料 | 30,000円 |
更新料(1年毎に更新) | 5,000円 | |
組織適合性検査(HLA検査)・・・新規時のみ ※都道府県により異なりますが、宮城県の場合は右記となります。 |
20,000円 | |
移植時に必要な費用 | コーディネート経費 | 100,000円 |
臓器搬送費・摘出医師派遣費 | 実費 | |
血清搬送費 | 実費 |
公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク
http://www.jotnw.or.jp/
■病棟チームメンバー
戸子台和哲:外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、日本移植学会認定医、臨床腎移植学会認定医・評議員、
消化器病専門医・指導医、日本肝胆膵外科学会評議員、組織移植認定医
藤尾 淳 :外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、日本移植学会認定医、
日本肝胆膵外科学会評議員・高度技能専門医、日本臨床栄養代謝学会(JASPEN)認定医
柏舘 俊明:外科専門医、消化器外科専門医・指導医、日本移植学会認定医、臨床腎移植学会認定医、日本肝胆膵外科学会評議員
宮澤 恒持:外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、日本移植学会認定医、日本肝胆膵外科学会評議員・高度技能専門医
佐々木健吾:外科専門医、日本移植学会認定医
宮崎 勇希:外科専門医、消化器外科専門医、日本移植学会認定医
松村 宗幸:外科専門医、消化器外科専門医、アメリカ移植学会認定肝臓腎臓膵臓小腸多臓器移植医
山名 浩樹:外科専門医
三頭 啓明:外科専門医、消化器外科専門医
■スーパーバイザー
後藤 昌史:移植再生医学分野教授、移植学会認定医、組織移植認定医