HOME > 肝臓移植


 1960年代のはじめから開始された肝臓移植は、今までに世界で10万人を超える患者様に行われています。特に欧米では1980年代に新しい免疫抑制剤が開発されて以来、一般的な医療として定着しており、その大部分は脳死の提供者(ドナー)からの脳死肝移植です。日本では長い間脳死は人の死として認められていませんでしたが、1990年、生体ドナーから肝臓の一部を提供していただき移植する生体部分肝移植に成功して以来、生体肝移植を中心に発展し、2021年までに肝移植を受けた患者様は10000人以上となっております。1999年に開始された脳死肝移植についてもその件数は徐々に増加してきており、2022年12月までに25施設で812例施行されています。
 東北大学では1991年7月に東日本初の生体部分肝移植を成功させて以来、生体・脳死肝移植合わせて238件の肝移植を施行しております(2023年8月現在)。


 肝臓は身体の重要な機能を担っており、「身体の工場」ともいわれています。身体の恒常性を維持するため、さまざまな物質の合成、代謝、解毒を行っています。
 従って、様々な病気が原因で、内科的治療によっても機能回復の見込みがなくなった肝不全状態の肝臓は、健康な肝臓に入れ替えなければ身体の基本的な機能の維持ができないことになります。これが肝移植をしなければならない理由です。

 肝臓病末期の患者様は身体の状態が悪くなっている為、移植手術を受ける前に

 1)移植手術のような大きな手術に耐えうることができるか?
 2)感染症はないか?
 3)移植後の再発の可能性はどうか?

 などが問題となります。その為様々な検査をし、内科医と相談しながら適応を判断します(院内肝臓移植適応委員会)。
 東北大学の成績は、病気によっても違いますが、肝臓移植を受けた方の80.8%が5年以上生きられます(下図参照、肝移植研究会全国集計では77.8%)。しかし、全員が助かるわけではありません。更に、ドナーの問題や経済面の問題もあります。移植手術を受けるかどうかは患者様、ご家族の方で充分話し合って決めていただくことが重要です。正確な情報や疑問点にはスタッフがいつでもお答えします。
 移植手術が無事に終わったとしても、全ての方が健康な生活を送れるとは限りません。拒絶反応や感染症、肝臓の血流や胆汁の排泄の問題などにより移植後に命を落とすことや入退院を繰り返すこともあります。手術後は筋力もかなり低下し、すぐには歩くことができず、退院までしばらくリハビリが必要なこともあります。しかし、最初の3カ月を乗り切ることができれば、多くの方が通常の日常生活を送れるようになります。手術前はほとんどベッドの上での生活しか出来なかった患者様が元気に社会復帰され、生活の質の向上が期待できます。
 退院後は定期的に外来受診をし、採血や腹部エコーなどで移植された肝臓の状態を診ていきます。免疫抑制剤は基本的に一生飲み続けなければいけないので、患者様自身が薬の名前や量、副作用などを覚え、自己管理をする必要があります。お子さんの場合はご家族がそれを代行します。

移植後は「自分の身体は自分できちんと管理する」心構えが大切です。

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肝不全は全て肝移植の対象となりますが、主な病気を下記に挙げます。

肝臓移植適応疾患(成人)
 ・肝硬変症
   B型肝硬変、C型肝硬変、アルコール性肝硬変
   自己免疫性肝硬変、非B非C肝硬変
 ・胆汁うっ滞性疾患
   原発性胆汁性胆管炎PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)
   バイラー病、カロリー病、胆道閉鎖症(BA)
 ・劇症肝炎
 ・代謝性疾患
   α-1 アンチトリプシン欠乏症
   ヘモクロマトーシス、ヘモジデローシス、ウイルソン病
   糖原病、高シトルリン血症、その他
 ・肝臓腫瘍
   肝癌(原発性のみ適応、転移性は適応外)、良性腫瘍
 ・その他
   バッドキアリ症候群、先天性肝線維症

肝臓移植適応疾患(小児)
・胆汁うっ滞性疾患
    胆道閉鎖症、アラジール症候群、バイラー病
    総胆管拡張症、カロリー病、その他
 ・肝硬変症
    自己免疫性肝炎、その他
 ・代謝性疾患
    α-1 アンチトリプシン欠乏症、チロシン血症
    ウイルソン病、糖原病
    オルニチン・トランスカルバミラーゼ欠損症(OTCD)
    その他
 ・新生児肝炎
 ・劇症肝炎
 ・肝臓腫瘍
    肝芽腫、肝細胞癌、その他
 ・その他

 小児で肝臓移植が必要な病気の中で、最も多くをしめるのが胆道閉鎖症です。
 胆道閉鎖症に関しては、肝門部空腸吻合術(葛西手術)をしても病状が改善しない症例、もしくは一旦改善した後も再び悪化した症例を肝臓移植の適応としています。
 小児肝臓移植の1年生存率は、生体肝臓移植で89.4%、東北大学91.2%、5年生存率で86.8%(東北大学90.1%)です。以前は1歳未満や体重10kg未満の小児は生存率が不良といわれていましたが、最近では、手術手技や周術期管理が向上したため、良好な成績が得られております。

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 前記の適応を満たしても、患者様の状態によっては移植ができないこともあります。これを禁忌といいます。これは以下に示しますが、特に重視されるのは、肝臓以外の臓器に障害がある時です。
 患者様が肝臓移植の適応かどうか、禁忌がないかを慎重に検査して評価する必要があります。

<絶対的禁忌>…生命にかかわる病気の原因が他臓器にあり、肝臓移植によって改善する見込がない
・敗血症
・重症心不全、呼吸不全
・非可逆性の脳・神経障害
・肝臓以外の悪性腫瘍
・発症したエイズ
・薬物中毒
・アルコール中毒   等

<相対的禁忌>…場合によっては肝臓移植手術ができないことがある
・重症の肝性昏睡
・制御困難な消化管出血
・高度の栄養障害
・アルコール性肝硬変
・発症前のエイズ
・重症の精神障害
・高齢者:具体的に何歳まで肝臓移植ができるか統一した見解は得られていない

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 肝臓移植の適応と考えられても、それぞれの病状が変化していくなかで、どの時点で移植を行うか判断するのは難しいことです。
 原則的には、「進行性の末期肝疾患で、肝臓移植以外の治療では余命1年以内と推定される」状態となった時がまさに移植の時期とも言えます。その後、末期肝不全に陥り、全身が弱った状態になってしまうと、肝臓移植の手術に体が耐えられず、手術することでかえって死期を招くことにもなりかねません。末期肝疾患の判断はビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、腹水の有無、脳症の有無で算出されるChild-Pugh分類が用いられます。
 また、肝臓自体はまだ末期状態ではなくても、肝臓が悪いがために起こる症状、例えば、著しい成長障害、夜も眠れないほどの身体中のかゆみ、繰り返す胆管炎、低酸素血症(肝肺症候群)、門脈圧亢進症が原因の消化管出血がある場合も移植が適応とされます。
 逆に状態が落ち着いていれば、手術まで自宅で待機してもらい、都合の良い時期(学生の場合は長期休暇など)に予定する事もできます。
 一度移植手術の実施日を決めていても、手術は状態の悪い患者様を優先するため、延期しなければならない場合もあります。同じ肝臓移植を待っている患者様と自分を比べて、あせったり不安になったりすることがあるかもしれません。しかし、患者様ひとりひとり病気も違えば状態も違います。それぞれの患者様に最善の治療を行うように努力致しますのでご安心下さい。
 いずれにせよ、前述の肝臓移植適応疾患の患者様で「肝臓の機能が進行性に悪化し始めた時点で、肝臓移植を治療法の一つとして考慮する」必要があります。

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 生体肝臓移植とは、健康で自発的な意思のある近親者がドナーとなり移植が行われる事を言います。

■利点
・(脳死ドナーから肝臓をいただいて移植する)脳死肝臓移植よりも待機時間が短く、本格的に全身状態が悪化する前に移植することができる。
・ドナー手術を同病院で並列して行うので、搬送時間がなく臓器保存時間が短くてすむ。
・血縁者がドナーとなる場合は、組織適合性が良い。
・一部を除き、移植手術が定期手術として、充分な準備のもとに行える。

■問題点
・健康なドナーのお腹を切開し、肝切除手術をしなくてはならない。
・ドナーから摘出できる肝臓の大きさが限られているため(部分肝移植)、身体が大きなレシピエントには移植できない。
・部分肝移植となるので血管が細く短くなり、脳死肝臓移植に比べ手術が難しい。
・血縁者(あるいは配偶者)にドナーとなりえる人がいない場合は移植ができない。
・移植した肝臓が機能しなくなった場合、再移植が困難な場合がある。

成人の生体肝臓移植で問題となることの一つに、肝臓の大きさがあります。
成人の場合、小児と違い、身体が大きい為必要となる肝臓のサイズも大きくなります。
小児の場合はドナーの肝全体の30~40%(肝左葉)
成人の場合はドナーの肝全体の60~65%(肝右葉)が必要となる場合が多いです。

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■利点
・健康なドナーのお腹を切開する必要がない。
・全肝を移植でき、血管も太く長い。

■問題点
・生体肝移植よりも待機時間が長い。

 脳死肝臓移植を受けるにはまず、日本臓器移植ネットワークに登録する必要があります。登録後はビリルビン、プロトロンビン時間、クレアチニンで算出されるMELD(Model for End-stage Liver Disease)スコアの高い順に優先順位が設定されます。2017年10月より小児ドナーから小児レシピエントに優先されるように肝臓の選択基準が改正されました。
 日本での脳死肝臓移植は現在までに約800名以上の方に脳死肝臓移植が行なわれており、臓器移植法改正後では年間60~90名の方に移植されています。また、現在の待機患者登録人数などの情報はインターネットでも検索することが出来ます。
(アドレス:http://www.jotnw.or.jp/ )
 登録を希望される場合は医師や移植コーディネーターにご相談下さい。

 日本臓器移植ネットワークに脳死肝臓移植の登録が完了した場合は、いつ脳死ドナーがでるか、また、いつ移植手術の順番が回ってくるかわかりません。その為、移植手術を受ける意思があるのか、また移植手術を受けられる状態であるのかを確認する為に24時間いつでも連絡がつくような態勢を整えておく必要があります。
 移植手術を受けることが決まりましたらすぐに東北大学病院に入院して頂きます。

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 肝臓の提供を受ける方(以下レシピエントと呼びます)は下記のような耐術能検査をクリアする必要があります。

■必要となる検査
 採血、採尿、心電図、胸腹部レントゲン写真、呼吸機能検査、便潜血検査、各種培養検査、リンパ球交差試験、身長、体重、腹部エコー検査、胸腹部CT検査、頭部CT検査、腹部MRI、上部、下部消化管内視鏡検査、心エコー、骨密度、肺血流シンチ、肝生検 など。

■術前準備
1)歯科、耳鼻科、眼科、婦人科受診
 手術前に感染症の病巣となる可能性のある部位(虫歯・副鼻腔炎など)を検査し適切な治療を行います。移植後に免疫抑制を行いますので、これらが原因で敗血症になることがあるからです。
2)必要な予防接種を受ける
 乳幼児、または緊急例を除き小児の場合は特に重要です。移植後は免疫抑制状態となるので、必要なものは移植前に接種することが望ましいです。
 いつ予防接種をしていいかなど、疑問に思うことがありましたら、医師、看護師、移植コーディネーターにお尋ね下さい。
 また、予防接種の接種状況を把握する為に、母子健康手帳にて確認をさせていただきます。
3)内視鏡的硬化療法
 移植後の出血を予防するために、出血の可能性のある食道静脈瘤に対して、手術前に時間的余裕がある場合に行います。
4)風邪やインフルエンザ等の感染症を持つ人との接触を避ける。

■入院
 検査入院に関しては患者様の状態で異なりますが、約2~3週間となります。
 移植手術目的での入院の場合は、手術予定日の1~2週間前の入院となります。
 血液型不適合移植あるいはリンパ球交差試験陽性の場合、移植された肝臓が抗体によって攻撃されます。これを防ぐため、移植前に血漿交換を行うなど、抗体価を下げるための処置を行う必要があります。

■手術
 肝臓移植の手術は移植手術のなかで、最も難しい手術の1つとされています。手術は全身麻酔で行われます。手術時間は通常12~18時間かかります。移植前に腹部の手術経験がある患者様は肝臓周囲の癒着をはがすのに時間がかかるため、腹部の手術経験がない患者様よりも長時間の手術となることが多いです。手術は、病気になった肝臓を全て取り出し、同じ場所に提供者からの肝臓を移植します。新しい肝臓の血管とレシピエントの血管(肝静脈、門脈、肝動脈)をつないだ後、胆管をつなぎます。胆管をつなぐ時は、細い管を胆管の中に入れ、それを身体の外に出すこともあります。この管は、肝臓から出る胆汁を身体の外に出すことにより、胆管をつないだ部分の治りを助けます。この管は通常移植手術後、2〜3カ月位で抜きます。胆道閉鎖症の場合は、レシピエント側につなぐ胆管がないので、小腸の一部を持ち上げて移植された肝臓の胆管とつなぎます。この方法は、Yの字に似ているので、この方法を開発した外科医の名前をつけて、ルーY法と呼ばれています。
 このほか、術後に栄養を与えるためのチューブを挿入したり、門脈に直接薬を入れたり、圧を計るカテーテルを挿入したりと、手術の状況で必要と思われる処置を行います。
 手術は長くかかりますので、ご家族の方々はできるだけ病棟等で休息をとるようにしてください。

■集中治療室(ICU)での治療
 手術が終了したら、レシピエントは集中治療室(ICU)に収容されます。ICUでは、患者様を厳密・的確に管理するために、たくさんの管が入っています。
 ICU入室後に医師から手術の説明をご家族の方にさせて頂きます。患者様の身辺の環境が落ち着きしだい、面会となります。ICU入室中は、人工呼吸器管理を必要とすることも多く、必要に応じて麻酔薬を持続的に注射させていただきます。このため、人工呼吸器管理中は話しかけても患者様はわかりません。麻酔薬の量が減るに従い、呼びかけに答えられるようになります。ICUの入室期間は患者様の状態によって違いますが、標準的には1週間程度です。
1)気管チューブ
 口あるいは鼻から気管の中に挿入する管で、人工呼吸器から患者様の肺に酸素や空気を運ぶためのものです。このチューブは声帯の間を通っているので、管を抜くまでは、患者様は話すことができません。
2)経鼻胃管
 細いビニールの管で、鼻を通して胃まで挿入し、胃液を外に出すために使います。手術の影響で胃や腸は麻痺し、動きが悪くなり、この動きが普通に戻るまで、数日かかります。この管は腸が正常に動くようになるまで入れておきます。また、必要な薬剤や栄養剤の投与をこの管から行うこともあります。
3)尿道カテーテル
 尿道から膀胱に挿入する細い管で、手術室で挿入します。これは、手術中・手術後の尿量を正確に測定するために必要です。
4)腹部ドレーン
 腹部の手術創の近くからドレーンという径10mm程度の管が2~3本、腹腔内に挿入されています。この管は腹腔内に溜まった液体や血液を身体の外に出すためのものです。これは必要がなくなり次第抜きます。
5)輸液ライン
 数本の点滴のための管が移植後数日にわたってつながっています。これは水分や栄養、薬剤を投与するために用います。
6)動脈ライン
 血圧を連続して測るために腕あるいは足の動脈に入れてある管です。この管は採血のためにも使用します。
 手術後数日間は、呼吸管理のための理学療法(吸入、背中をたたく、機械で背中に振動を与える)を行います。これは、肺をもとのように拡げ、痰を出しやすくするために行います。

■一般病棟(西7階病棟)
 ICUでの状態が落ち着けば、一般病棟の個室に移ります。病棟で過ごす期間は状態によって変わってきますが、およそ1~2カ月くらいです。
 初めのうちは体力も回復しておらず、傷が痛んだり、眠れなかったり、起き上がることも大変かもしれません。しかし、一進一退はありますが、日に日に良くなっていくでしょう。その為に患者様自身にも頑張っていただかなければならない時期となります。例えば体力・筋力をつけるために、食事をきちんととる、リハビリを毎日少しずつでも進めていくことはとても重要なことです。また、移植後の身体の状態をきちんと把握する、飲んでいる薬の名前や作用を覚える、感染予防の為のケアをきちんとすることも大切です。

■合併症
 合併症は大きく3つに分けられます。
 移植肝機能不全や血栓症により移植した肝臓が働かなくなった場合、救命するために再移植が必要になることがあります。日本での生体肝臓移植による再移植の1年生存率は約55%程度です。

①手術をすることにより起こる合併症
 肝移植は肝動脈・肝静脈・門脈・胆管を縫い合わせる手術ですが、それらの血管から出血したり、血栓でつまってしまうことがあり、その場合は再手術や処置で修復する必要があります。
②拒絶反応
 移植された肝臓が異物として認識されるため、それを排除しようとして起こる反応です。拒絶反応は起こる時期により大きく二種類に分けられますが、術後1週間~3ヵ月間に起きる急性拒絶反応は、ほとんどは免疫抑制剤を増量することで対処できます。
③感染症
 移植後、免疫抑制剤を使用することにより身体の免疫力が低下し感染症に罹りやすくなります。
 術後にみられる細菌感染の他に真菌(カビ)、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどによる感染症を発症することがあります。そのような場合は抗菌薬や抗真菌薬で治療します

■拒絶反応と免疫抑制剤
 移植された臓器が生着するためには、拒絶反応による破壊から臓器を守る必要があります。私達の身体の中に異物(自分でないもの)が入ったとき、身体の中の免疫系は普通これを排除しようとします。ウイルスや細菌、真菌などによる感染症の場合、この防御反応がわたしたちを病気から守ってくれます。しかし、臓器移植の場合、この『自分でない他人の臓器』に対して、免疫系が反応し、排除しようとする『拒絶反応』を抑える必要があります。これは、拒絶反応を抑える薬を注射したり内服することにより可能です。このような作用のある薬を免疫抑制剤といいます。現在、移植に使用されている基本的な免疫抑制剤には、ステロイド、シクロスポリン(ネオーラル)、タクロリムス(プログラフ、グラセプター)、MMF(セルセプト)、CD25Ab(シムレクト)、エベロリムス(サーティカン)などがあります。薬剤が指示通りに投与されていても、拒絶反応が起こることがあります。
 拒絶反応は移植後早期に起こることが多いとされていますが、10年経っても起こることはあります。拒絶反応は血液検査で診断できることもありますが、場合によっては診断を確実にするため、移植した肝臓の一部を細い針で採って病理組織検査(顕微鏡で調べる)をすることがあります。このような検査を肝生検(バイオプシー)といいます。
 検査により拒絶反応と診断された場合はステロイド剤大量投与の治療を行います(ステロイドパルス療法)。ステロイドで治療が充分でない場合は、デオキシスパガリンやATG(サイモグロブリン)、リツキシマブなどの特殊な免疫抑制剤を使用することもあります。
 免疫抑制剤にはそれぞれいろいろな副作用があります。有名な副作用として、ステロイドによる肥満、多毛、シクロスポリンの高血圧、多毛、歯肉炎、腎障害、肝障害、プログラフによる高血糖、腎障害、MMF・デオキシスパガリンによる白血球・血小板減少などです。また、拒絶反応だけでなく、細菌、ウイルス、真菌に対する免疫反応も抑えるため、これらに感染しやすくなります。入院中は感染症には充分注意して管理していますが、もし起った場合はすぐに治療が必要となります。感染症にならない為の予防法や自己管理なども入院中に覚えて下さい。
 そして、免疫抑制剤は基本的に一生飲み続けなければいけないと考えて下さい。ただし、術後1年でかなり免疫抑制剤を減量できる方もいます。

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【当院のドナー適応基準】
○前提条件
・臓器提供に関して自発的な提供の意思があること
・強要、あるいは金品授受等の利益供与がないこと
・原則として20~60歳まで
○医学的条件
・健常人で、心身ともに健康で大きな病気がないこと
・ドナー手術のインフォームドコンセントを取得しうるだけの理解力と判断力を有すると判断されること
・肝臓の機能が正常であること
・肝炎ウイルス等の感染症がないこと
・提供肝と残肝の容積計測の検査、肝臓および周囲の血管や胆管などに問題がないこと
・レシピエントとの血液型が一致、または適合していることが望ましい
○社会的・心理的条件
・提供者は日本移植学会基準により親族に限定する。親族とは民法上の6親等以内の血族と3親等以内の姻族とする
・手術後の長期の経過観察に応じることが可能であり、かつそれを了承していること
○その他
・ドナー手術とそれに付随する危険性を充分理解しており、危険度を理解した上での提供であることを移植チームの構成員とは別の施設内組織あるいは医師が確認していること

■ドナーになる前に理解していただきたいこと
全身麻酔下での外科手術に共通する手術中あるいは手術後の危険性、即ち出血、感染、麻酔合併症、死亡など。(日本では1名の死亡例があります)

  1. 一般的な腹部手術後に起こりうる合併症、即ち、消化管機能障害、腸閉塞、消化性潰瘍、腹壁瘢痕ヘルニアなど。
  2. 肝切除量が多い場合、残肝容積不足から術後肝不全になる可能性。
  3. 早期あるいは晩期の胆道系・血管系の合併症。
  4. 成分輸血や血液製剤の投与に付随する危険性。
  5. 一時的あるいは永続的な身体的または心理的な損失や有害事象。
  6. 晩期の未知の合併症。


以上の事について医師から詳しい説明致します。
疑問に思うところはどんなことでもよいですから医師に質問して下さい。

■ドナー検査
1)スクリーニング検査(外来)
採血、採尿、胸腹部レントゲン写真、腹部CT検査
 病歴聴取、身長、体重など

↓ スクリーニング検査で問題が無かった場合

2)入院検査(1~2泊)
胃カメラ、採血、心電図、呼吸機能検査、便潜血検査
 腹部エコー検査、各培養検査
リンパ球交差試験
《レシピエントの方が、ドナーの組織を攻撃する抗体をもっていないかどうかを調べる採血検査です。この反応が強い場合は、移植手術前に血液型不適合の場合と同様の処置が必要です。術後も、やはり同様に多くの免疫抑制剤を内服する必要があります》
精神科受診
《精神的安定性などを診断するために移植スタッフ以外の精神科医のインタビューを受けてもらいます》
自己血採血(貯血)
《手術前に自分の血液を採取し、手術用に貯えておきます》
 これは、自分の血液(自己血)を用いることにより、感染症等の危険性をさけるためです。今までに当大学で行った生体肝臓移植のドナーの出血量は1000ml以下で、ほとんどの場合、自己血輸血のみで対処できております。しかし、万が一の大量出血に備えて献血された日赤の血液も用意します。
 自己血採血は、手術の2週間前から週1回、400ml採血し、ドナーの手術の種類(右葉切除か左葉切除か)によって400〜800mlの血液を用意します。採血は、大学病院の成分採血室で予約した日時に行います。貯血の前に貧血が無いか確認し、一般献血と同じ方法で行います。
 採血終了時に、エリスロポエチンという赤血球を作らせる作用のある薬の皮下注射や、貧血改善の目的で鉄剤を内服(または注射)して頂く事もあります。鉄剤の内服で便が黒くなりますが、心配ありません。

■術前準備
 基本的に、手術までは禁酒、禁煙、適正体重の維持が必要となります。また脂肪肝と診断された時はダイエットが必要となります。また、風邪をひかないなどの体調管理や規則正しい生活を心掛けて下さい。

■入院
 入院は移植手術日の4〜5日前となります。手術前に麻酔科外来受診やMRI検査など、手術の準備をします。

■ドナー手術
 レシピエントの体重から、必要な肝臓の大きさを計算して、ドナーから摘出する肝臓の大きさを術前に決めます。ドナーにとって危険が及ばないよう、慎重に検討します。
手術の手順について
 手術室に入室してからご家族の方が面会出来るまでの時間は約8~10時間くらいです。レシピエントの手術の進み具合で肝臓を摘出するタイミングを遅らせることがあります。その場合は手術時間が長くなります。
 麻酔は、普通一般に行われている方法ですが、硬膜外麻酔と全身麻酔を組み合わせて行います。
 お腹の切開の仕方は、以前は上腹部に逆T字型に横切開と縦切開を入れていましたが、最近は腹腔鏡の補助下で行うことも可能となり、上腹部(みぞおちあたりからへそ上まで)を縦に切るだけで済むことが多くなりました。お腹を開いたあと、肝臓の状態をよくみて、肝臓が移植できると判断してからレシピエントの手術をはじめます。
 肝臓の移植予定の部分の血管、胆管を明らかにしてから、切除予定線に沿って肝臓を割っていきます。胆嚢は術式によらず摘出します。胆嚢摘出による身体への直接的な影響はほとんどありません。
 摘出した移植予定の肝臓は、バックテーブルという手術台で移植しやすい様に血管の形を整え、修復・延長した後、移植するまで、冷たい保存液の中に保存します。
 また、手術に際し、レシピエントの血管が細い、短い、欠損している等の場合ドナーから切除してもいい静脈、(替わりの血管が充分にある血管:卵巣の静脈、骨盤の静脈、下肢の静脈など)を摘出する場合があります。
 肝臓の摘出操作が終わったら、血管の切り口を縫い合わせ、肝臓の断面に沿ってドレーンという直径10mmくらいの管をいれ、お腹を閉じて手術を終了します。ドレーンはお腹の中にたまった血液などを、身体の外に出すためのものです。ドレーンは通常1週間位で抜きます。

■ドナー手術後の経過
 手術が終わって、麻酔の影響から回復したら、ICUという重症病棟に移ります。出血など合併症がなく経過した場合、手術の翌日には一般病棟に移ります。
 手術の危険性は、一般のおなかの手術(肝臓切除術)と同等であると考えてください。麻酔、手術で死亡することは極めて低いのですが、日本では2003年に右葉切除をしたドナーの死亡例が1例ありました。出血、創感染、腹腔内膿瘍、胆汁瘻などの合併症や、偶発的な合併症(薬剤によるショックなど)の可能性もわずかですがあります。
 もしこのようなことがあれば、すぐに、ご本人、ご家族の方に説明し、治療を開始します。合併症が起きた場合、入院期間が長くなることがあります。手術創の感染など命に関わらないものも含めた合併症の頻度は2割程度です。
 痛みは、充分に痛み止めが効く人と効きにくい人がいます。しかし手術後は出来るだけ痛まないように処置をします。
 手術翌日で水分がとれるようになり、その後消化の良いものから食事が開始されます。
 順調に経過した場合、2週間程度で退院し、自宅療養が可能となります。
 手術後4週間位すれば、レシピエントに付き添ったり、軽い仕事に戻るくらいに回復してきます(個人差はあります)。
 肝臓は再生する臓器で、約1カ月もすれば大きさは元の肝臓の80~90%くらいに戻り、肝機能も元通りになります。
 退院後は2、3ヵ月毎に外来受診をして、採血や腹部CT検査を行います。特に問題がなければ、術後1年で様子観察となります。
 しかし、約3割の方に手術後しばらくのあいだ、身体の不調や、肝機能異常がみられることもあります。体調が優れない時にはすぐに医師、看護師、移植コーディネーターにご連絡下さい。

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 レシピエントとドナーが違う血液型の場合、肝臓移植は可能ですが、拒絶反応・感染症が起きやすいため、成績が悪くなります。血液型が異なっても「適合」とされる組み合わせの場合(ドナーO型の場合など)は移植成績に影響はありません。施設によってはABO不適合を適応としていないところもあります。
 移植術前に血漿交換などを行い、移植14日前より免疫抑制剤を開始するなど、免疫抑制を増強しなければなりません。感染症で移植前に死に至るリスクも上昇するため、当科では十分危険性を理解して頂いた上で、血液型不適合移植を行っております。
 最近の血液型不適合の成績は1年生存率で80%程度と血液型適合移植と遜色ない成績まで良くなってきており、当院では25例の血液型不適合移植を実施しております。(2023年9月現在)

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<生体肝臓移植術>
■保険がきく病気(高額療養費も適用)
・先天性胆道閉鎖症
・進行性肝内胆汁うっ滞症(原発性胆汁性胆管炎と原発性硬化性胆管炎を含む)
・アラジール症候群、バッドキアリ症候群
・先天性代謝性肝疾患(家族性アミロイドポリニューロパチーを含む)
・多発性嚢胞肝、カロリー病
・肝硬変(非代償期)
・劇症肝炎(ウイルス性、自己免疫性、薬剤性、成因不明を含む)
・肝細胞癌(遠隔転移と血管侵襲を認めないもので、肝内に径5cm以下1個または3cm以下3個以内(ミラノ基準)、もしくは径5cm以下5個以内かつαーフェトプロテイン(AFP)が500ng/mL以下(5−5−500基準)を満たすもの)

 小児慢性特定疾患、特定疾患の患者様の費用はこれまで通り公費が適用されます。
 18歳未満の患者さんの場合で移植手術を受ける際に、新たに自立支援医療(育成医療)の申請が必要な自治体もあります。

■保険がきかない病気(高額療養費も適用になりません)
上記以外の病気の患者様は全て自費になります。
 自費の場合は約1000~2000万円かかります。これはあくまでも現在の平均で、それ以上かかった患者様もいらっしゃいます。病気によっても違ってきますし、個人によってもかかる費用は違ってきます。これは、治療や手術時間・ICU滞在日数や入院期間などによるからです。肝臓移植の費用は全て治療費であるため、患者様が助からなかった場合でも支払って頂くことになります。

■移植後の患者様に対する医療費
 術後継続した免疫抑制剤を服用することにより身体障害者1級が適用されます

■ドナーの費用
 検査・入院・手術はレシピエントへの請求となり、ドナー検査、手術費用、入院中の治療費、術後1年間までの診察・治療費に関しては、レシピエントへの請求となります。
 1年目を過ぎての診察・治療費は、ドナーになられた方ご自身の保険診療となります。
 また、ドナー検査を行ってドナーにならなかった方については、検査を受けたご本人への請求となります。

<脳死肝臓移植>
 保険適応は生体肝移植と同じです。
 臓器搬送費は、療養費として算定されます。
 日本臓器移植ネットワークに脳死肝臓移植登録申請時、登録料として3万円支払うことになります。また、待機期間中は登録更新として1年毎に5千円が必要です。移植手術が完了した時点で、日本臓器移植ネットワークにコーディネート経費として10万円支払うことになります。
 なお、日本臓器移植ネットワークに支払う、新規登録料・更新料・コーディネート経費は医療費控除の対象となります。

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 自国の患者は自国で治療するべきという原則のもと、2008年5月の国際移植学会において「臓器取引と移植ツーリズムに関するイスタンブール宣言」が採択され、海外渡航移植の原則禁止が提言され、2009年5月の世界保健機関(WHO)総会で、臓器移植手術を受けるための海外渡航が原則禁止となる採択がされています。

 これにより、我が国では2009年に脳死移植を可能とする臓器移植法の改正が行われ、2010年7月17日以降脳死移植は本人が提供拒否の意思を示していない限りは家族の同意が得られれば臓器提供が認められるようになりました。これによって、日本国内で15歳未満のドナーの臓器移植が可能となりました。

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■チームメンバー
戸子台和哲:外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、移植学会認定医、肝臓専門医・指導医、消化器病専門医・指導医、
      肝胆膵外科評議員、組織移植認定医
藤尾 淳 :外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、移植学会認定医、肝臓専門医・指導医、
      肝胆膵外科高度技能専門医・評議員、日本臨床栄養代謝学会(JASPEN)認定医、小児慢性特定疾病指定医、
      指定難病指定医(肝臓)、身体障害者福祉法指定医(肝臓機能障害)
宮澤 恒持:外科専門医・指導医、消化器外科専門医・指導医、移植学会認定医、肝臓専門医、肝胆膵外科高度技能専門医・評議員
佐々木健吾:外科専門医、消化器外科専門医、移植学会認定医、肝臓専門医
松村 宗幸:外科専門医、ECFMG認定(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)、
      アメリカ移植学会認定肝臓腎臓膵臓小腸多臓器移植医、消化器外科専門医、肝臓専門医
小笠原弘之:外科専門医、消化器外科専門医、移植学会認定医、肝臓専門医、肝胆膵外科学会評議員
三頭 啓明:外科専門医、消化器外科専門医、肝臓専門医

■スーパーバイザー
後藤 昌史:移植再生医学分野教授、移植学会認定医、組織移植認定医

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 ■東北大学病院 臓器移植医療部
  〒980-8574
   仙台市青葉区星陵町1-1
   TEL:022-717-7702
 (※電話対応は平日9:00-17:00となります。
   出張などで対応しかねる場合もございます)

 ▶レシピエント移植コーディネーター
  盛合 律子(もりあい りつこ)
  E-mail:

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